税理士探しのヒント

退職金制度の落とし穴

退職金は会社の債務です

企業の退職金・年金制度は、1990年代後半以降に資産運用環境が悪化し、2001年3月から 新たな退職給付会計基準が導入されました。その後に退職給付積立不足という大きな問題が 浮上しました。いったいどれほどの企業が最適な退職金制度を運用をできているのでしょうか?

小企業の退職金制度改定の流れは3つに分化。

①中小企業退職金共済:従来からある確定給付型の制度。一定の中小企業が加入。
①確定給付企業年金:確定給付の形を受け継ぐ制度。財政検証を毎年厳しく行う。
①確定拠出年金:就業期間中に退職金を前払いし、退職給付債務をそのつど清算していく方法。

2001年10月
2002年4月
2003年3月
07~09年
2012年3月末
確定拠出年金法の施行
確定給付企業年金法の施行
3月決算期より退職給与引当金の損金算入が廃止 団塊の世代の定年退職ラッシュ
税制適格退職年金の廃止

退職金制度は大きな変革の時期にあります。

これには4つの要因があります。
①2012年3月に迫った適格年金の制度の廃止
②厚生年金基金の解散、代行返上の増加
③新しい退職給付会計基準の問題
④積立不足の表面化



退職金制度の種類と特徴

退職金制度をめぐる環境はこの10年で大きく変わったため、一言に退職金といっても色々な種類があります。退職金制度を見直し(導入)たい場合に、比較検討されるのが以下の3つの制度です。制度は、既存の適格退職年金制度から移行することが認められています。(適格退職年金制度は平成24年3月末で廃止され、以降は税制上の優遇措置が受けられなくなります。)なお、退職金制度の中には、一時金としてだけでなく年金として受け取りを選択できる場合もあります。

1中小企業退職金共済

中退共制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための国の退職金制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営しています。事業主が機構・中退共本部と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付します。従業員が退職したときは、その従業員に機構・中退共本部から退職金が直接支払われます。 掛金については国庫補助があり、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)を加入後四カ月目から一年間、国が助成します(新規加入の場合)。


2確定給付企業年金


将来の給付額をあらかじめ決めておき、そのため、毎年年金財政が予定通りに推移しているかを検証しなければなりません。また、積立不足が生じた場合についても一定期間内に不足を解消するよう取り決められています。年金資産の運用は企業が一括して行います。(契約先の生命保険会社や信託銀行に委託)将来の給付額を企業が保証しているため、運用リスクは企業が負います。 運用がうまくいかなかった場合は、企業が補填します。個人別の残高は把握できません。確定給付企業年金から転職先の確定拠出年金に資産(脱退一時金相当額)を移換することができます。


【一口メモ】
●退職一時金制度
退職時に一時金として受け取ります。退職金の積立方法には、基本給連動方式、別テーブル方式、定額方式、点数(ポイント)方式等があります。このうち、基本給連動方式は、その名の通り退職時の基本給または基本給の一部を計算の基礎としており、大多数の企業で、終身雇用・年功序列制度のもとで高額な基本給を基礎とした退職金が支払えない等の問題を抱えています。
●退職年金制度
退職時に退職金を一時金ではなく年金として受け取る制度。支払い期間を5年や10年等の期限付きで退職金を年金として分割して受け取る場合のほか、終身年金として受け取ることができる場合もあります。

3確定拠出年金(企業型年金)


拠出額(掛金)をあらかじめ決めておき、将来の給付額は拠出額とその運用実績によって決まる制度です。したがって、将来の給付額は運用実績によって変動します。(確定していません。年金資産の運用は、運営管理機関が提示した金融商品の中から、加入者自身が選択して行います。したがって、運用リスクは加入者が負います。(自己責任原則)運用がうまくいけば多額の給付を受けられる反面、うまくいかなかった場合は、給付額は少なくなります。


【確定拠出年金(企業型年金)のメリット・デメリット】

メリット デメリット
・退職給付債務(PBO)の認識が不要 ・拠出限度額等の適格要件を満たす必要がある
・運用難による損益がブレる影響から切り離される ・運用リスクを従業員が負うため反対が出易い
・企業拠出による掛金は損金となる ・非課税限度額が小さい為、既存の企業年金から全額を移行できない場合がある
・ポータビリティが増す為、中途採用がしやすくなる ・従業員向け投資教育従業員毎の記録管理が必要になる
・個人別に年金口座を持ち、年金資産を管理するので、 残高の把握が明確です。 ・継続して所定の拠出をおこなわなければならない
・加入者個人が運用方法を決めることが出来る。 ・新制度導入に伴う各種のコストやトラブルの発生
・社員の自立意識が高まる。 ・離職者が増加する可能性がある
・経済、投資等への関心が高まる。 ・原則60歳までは途中引き出しができない。
・運用が好調であれば年金額が増える。 ・運用が不調であれば年金額が減る。
・掛け金の追加負担が生じないので、将来の掛金負担の予測が容易。 ・運用するために一定の知識が必要。
・掛け金を算定するための複雑な数理計算が不要。 ・勤続期間が3年未満の場合には、資産の持ち運びが出来ない可能性がある。
・拠出限度額の範囲で掛金が税控除される。

データで見る退職金制度

確定拠出年金制度の懸念点

確定拠出年金制度には、大きく以下の4つの懸念点があります。

1.自己都合退職者に減額できない
2.60歳未満での脱退一時金受取の要件が厳しい。
採用企業としては、短期間で離転職を繰り返すものにまで同じ基準で
積立を行うことに抵抗感がある。
逆に3年以上勤務の場合は必ず100%持出しできる
3.社員ひとりひとりが運用する必要がある
4.投資教育義務があいまい


保険を利用した退職金準備

中小企業の経営者向けには、保険を利用して退職金を準備する方法があります。経営者のニーズによって保険の形態や活用方法は様々ですが、勇退時に定期保険契約を解約すると、一括で受取る「解約払戻金」が戻ってくるため、それを勇退退職慰労金の財源として活用することができます。保険料は、保険の種類により全額損金に算入できるものと、そうでないものがあります。保険会社によって「解約返戻率」に違いもありますので、一括見積りをして比較検討するとよいでしょう。


終身雇用が当たり前でない昨今、確定拠出年金は個人が年金を持ち運べるというメリットがあるため、良くも悪くも人材の流動性を促すことにつながっています。メリットを生かして、上手に確定拠出年金を利用する必要があります。


総括
高齢社会を向かえ、わが国の年金制度は公的年金として国民年金、厚生年金保険等がありながら、年金給付に対する財源不足の問題も抱えている。今後、さらなる年金支給開始年齢の引き上げも含め、さまざまな年金改革が行われることが必至だが、現在以上の手厚い給付が保証されることは難しいだろう。 その一方で、大手企業を中心として「老後の生活資金」となってきていた企業年金は近年次々と廃止、縮小を行っている。確かに、これまで見てきたように企業にとっての退職給付債務は、時として経営を大きく圧迫することがある。しかし、企業が社会的責任を果たすためにも退職金制度は重要な要素の一つであり、また優秀な社員が集まる信頼される会社の要素と一つとしても「退職金制度の存在」は上げられる。これまでのような各企業横並びの退職金制度ではなく、各企業が自社にあった退職金制度を検討することが重要であろう。
監修:社会保険労務士㈲人事・労務 畑中 義雄